研究室活動~フィールドワーク実習(有機・環境保全型農業の生産と販売)
Ⅰ 有機農業・環境保全型農業の定義と有機食品市場
Ⅰ 有機農業・環境保全型農業の定義と有機食品市場
1.有機・環境保全型農業とは
(1)有機農産物の定義(農林水産省のHPより)
2006年度(平成18年度)に策定された「有機農業推進法」において、有機農業を「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。」と定義されています。
(2)特別栽培農産物の定義(農林水産省のHPより)
その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物です。
節減対象農薬と化学肥料双方の節減が必要です。なお、節減対象農薬を使用しなかった場合、「節減対象農薬:栽培期間中不使用」との表示になります。
(3)各地域の独自認証
ある限られた範囲で生産される産品の高い品質を保証すると同時に、産品の地域性を消費者まで伝えられる仕組みです。自治体などが制度として運営する認証(有機JASと併用する例を含む)だけでなく、民間の加工・販売企業が地域性を発信している事例も紹介しています。大元鈴子氏はこれを「ローカル認証」と命名しています。
「ローカル認証」は、食材が地球を駆け巡るようなグローバルな流通と、地元で完結する流通(地産地消)との中間にあたる「中規模の流通」をめざすものです。生産者から少し離れた距離にいる消費者に、食品の地域性を正しく伝え、価値を感じてもらえる仕組みです。イメージ戦略による一過性のブランディングでなく、産地で生産方法を厳しく管理し、産品の価値が長続きする仕組みを創り出すヒントがたくさんあります(丸善のHPより)。
2.有機食品市場の現状
(1)有機食品の市場規模
農林水産省の資料(注1)によりますと、近年、世界の有機食品市場は拡大を続けている。有機食品の売上は増加し続けており、2018年には約1,050億ドル(約11.6兆円/1ドル=110円)に達しています(図表1)。1999年の市場規模が152億ドルですから、20年弱で7倍近くまで大きく拡大していることになります。
図表1 世界の有機食品販売額の推移

2018年時点で有機食品の市場規模が世界で最も大きいのがアメリカで、市場規模は5兆円を超えています(図表2)。ドイツやフランス、中国がアメリカに続き、各国ともアメリカほどではないですが市場規模は1兆円超えています。日本の市場規模は中国に次いでアジア2位、世界では13番目の有機食品市場規模ですが、アメリカの市場規模は日本の市場規模の29倍に達しています。両国の差は大きいのが現状です。ドイツに代表される第2グループと比べても日本の市場規模は小さく、6~7倍の開きがあります。
図表2 国別有機食品販売額(2018年)

1人あたりの有機食品消費額の世界平均は1,638円(12.8ユーロ)、スイスや北欧諸国で高い傾向にあります(図表3)。
図表3 国別1人当たりの年間有機食品消費額(2018年)

アメリカの有機食品関係団体であるOTA(Organic Trade Association)のデータによりますと、アメリカの有機食品の販売額は近年急激に拡大している。2010年に230億ドルから2019年には500億ドルに達しています。
有機食品の増加率は食品全体の増加率を上回っています。2012年から2015年までの4年間は対前年比で2桁の増加率を記録しています。2016年以降も食品全体の増加率を上回っています。最新のデータである2019年の対前年比を見ても、有機食品は4.6%増に対して、食品全体の増加率は2.3%である。
有機食品の増加率が食品全体の増加率を超えているため、有機食品の食品全体に占める比率を増えています。2010年時点で有機食品の比率は3.4%でありましたが、2019年には5.8%まで増加しています。
図表4 アメリカの食品総販売額と有機食品販売額の推移

品目別に見ると、野菜・果実が最も多くなっています。これは有機農産物が生産・販売され始めた30年前から変わらぬ特徴です。また、牛乳・乳製品の販売額が多いという点が注目されます。有機酪農を実践するためには放牧が不可欠になりますが、実際に有機酪農に適した牧草地の面積が急激に増加しています。

注1:農林水産省「有機農業をめぐる事情」令和2年